2012年10月17日水曜日

トライアングル

ここ数年、日本とイギリスとタンザニアの間を行ったり来たりする生活を送ってきました。東京に家族がいて、ブライトンとダルエスサラームでも下宿やホームステイをして、そこに住む人たちと家族のように一緒に生活をしてきたので、それぞれの土地に馴染むことになりました。このことはとても有難いことなのですが、馴染んだ分だけ、移動先の生活(気候、言語、文化、価値観など)に慣れるのに時間がかかりました。移動する前にいた場所の自分を維持したい、新しい場所に慣れたくないという無意識の抵抗もあったのだと思います。

移動した先に慣れるまでのふわふわとした時期を、私の指導教官は、文化的な時差ぼけ(cultural jet lag)と呼んでいました。昨年4月にタンザニアでの1回目の現地調査を終えてブライトンに帰ってきた時の文化的な時差ぼけは長く深くて、自分がどこに属しているのかわからない感覚がしばらく続きました。早くタンザニアに帰りたいといつも思っていました。その後、日本に一時帰国した際にもまた文化的な時差ぼけを感じました。

2か所・2言語の間でバランスととるより、3か所・3言語の間でバランスをとる方が難しいのです。誰かと話をするときに3分の1の自分しか見せていないような気がしたり、今自分がいない2つの国の自分が失われていくような気がしたり。そんなことを経験しながら、昨年の夏、3つの国を行ったり来たりしながら、その上でバランスを取っている自分自身の在り方に、トライアングル・アイデンティティと名前を付けました。移動するたびに文化的な時差ぼけを感じながら、3つの場所で、違う言語で話して、それなりに根を下ろして暮らしつつ、どこにも完全に入りきることは(でき)ないとひらきなおったのです。その後は、自分がその時にいる場所や会う人たちとどこか違う、ずれていると感じても、まぁ私はトライアングルだから仕方がないと思うようになりました。
 
ちなみに、今年3月にタンザニアでの2回目の調査を終えてブライトンに帰ってきて、その翌月に日本に一時帰国したときは、それほど文化的な時差ぼけは感じませんでした。ひらきなおりの効果もあり?、2度目の3か国間の移動なので慣れてきたようです。トライアングルもだんだん落ち着いてくるのかもしれません。そして、ブライトンでは私の周りは外国人が多くて、完全なイギリス人だけの環境というわけではないので、比較的バランスがとりやすく居心地がいいのだと思います。